ボランティア組織論
大都市の課題解決に挑む市民活動
UENO JUNKO
上野 淳子
担当科目
NPO・ボランティア組織論、NPO・市民活動支援、社会情報処理Ⅰ・Ⅱ 他
今、もっとも関心がある研究テーマは?
つながりが財産、NPOの強さの秘密
あなたは社会にとってどんな存在なのでしょうか?「学生」や「未成年」?あるいは「神奈川県民」?もしかしたら「消費者」「有権者」なんて答えが出てくるかもしれませんが、「市民」と答える方はまずいないと思います。
私の研究テーマは、「大都市の課題解決に挑む市民活動」です。大都市が抱える課題は、環境破壊や貧困、孤立など様々です。そうした社会的な課題を市民の手で解決する「しくみ」をどのようにつくっていけるか。そこで注目しているのが、NPOを含めた様々な組織や個人のつながりであり、活動を支えるネットワークです。
きっかけは、10年以上前に行った“まちづくりNPO”へのインタビュー調査です。そのNPOは、市民の目線で都市計画やまちづくりに関する調査をし、市民活動に役立つ提言を行っていました。まさに、市民による市民のためのシンクタンクです。民間のシンクタンクの場合、常勤職員が数十人から数百人いますが、このNPOの常勤はたった24人。この人数でどうやって専門的な調査と提言を可能にしているのか。その答えはNPOの中だけに注目していると分からなくて、NPOをとりまくネットワークを見ることで明らかになりました。このNPOでは、自治体職員、研究者や政治家など職業を越えて関係をもっていて、相互に助言や協力をしていました。「市民」は行政や議会と敵対している印象があるかもしれませんし、実際に対立することもあります。でも、対立している行政のなかにも協力者がいたりして……。この組織や職業の枠を超えてつながっていけるところが市民社会の強さを生み出しているのだと思います。
私の研究テーマは、「大都市の課題解決に挑む市民活動」です。大都市が抱える課題は、環境破壊や貧困、孤立など様々です。そうした社会的な課題を市民の手で解決する「しくみ」をどのようにつくっていけるか。そこで注目しているのが、NPOを含めた様々な組織や個人のつながりであり、活動を支えるネットワークです。
きっかけは、10年以上前に行った“まちづくりNPO”へのインタビュー調査です。そのNPOは、市民の目線で都市計画やまちづくりに関する調査をし、市民活動に役立つ提言を行っていました。まさに、市民による市民のためのシンクタンクです。民間のシンクタンクの場合、常勤職員が数十人から数百人いますが、このNPOの常勤はたった24人。この人数でどうやって専門的な調査と提言を可能にしているのか。その答えはNPOの中だけに注目していると分からなくて、NPOをとりまくネットワークを見ることで明らかになりました。このNPOでは、自治体職員、研究者や政治家など職業を越えて関係をもっていて、相互に助言や協力をしていました。「市民」は行政や議会と敵対している印象があるかもしれませんし、実際に対立することもあります。でも、対立している行政のなかにも協力者がいたりして……。この組織や職業の枠を超えてつながっていけるところが市民社会の強さを生み出しているのだと思います。
その研究における醍醐味や、やりがいは?
NPOが育む「市民」という考え方
調査で現場を訪れたときに、「市民の力でこんなことができるんだ!」と感動することがしばしばあります。例えば、NPO法(1998年制定)は、先ほどのまちづくりNPOを含め、さまざまな市民団体が結集し、国や政党に働きかけて獲得した制度です。
もっと身近なところで言うと、横浜市に残っている大きな森は、市民の活動の成果です。“横浜”と聞くと「大都市」や「海」をイメージするかと思いますが、大きな森が残されている場所がいくつもあります。すごいことに、そこはボランティアの市民によって管理されているのです。通常であれば、持ち主が手放すと開発されるしかない土地です。たとえ横浜市に寄付しても、市の財政だけで森を維持していくことは厳しいでしょう。それを、横浜市が「市民の森」という制度を設けて、市民のボランティアが保全活動を担えるようにしました。チェンソーや鎌で作業している姿はプロにしか見えませんが、もともと会社勤めや主婦をされていた方々です。一緒に見学に行った学生達も驚いていて、「さっそうと作業している姿が格好いい」と。この地域には、森のほかに川や里田を守るNPOが活動していて、それらの団体と行政、近隣の小学校などが連携して、地域の景観と文化を継承していこうと頑張っています。
NPOがもっている社会的なつながりは、別の視点からみると、参加しているメンバーがもっているネットワークの束であり、その人たちの経験によって積み重ねられてきたものです。NPOで活動している方にお話を伺うと、「前は別のNPOにいた」「ボランティアをしたことがある」という方によく出会います。あるNPOでの活動は終了したとしても、その人の人生において、また別の市民活動につながっているのが面白いと思いませんか?「ボランティアは民主主義の学校」と表現した人がいます。ふだんの生活では、自分が「市民」だという感覚はあまりありませんよね。NPOの活動を通して「市民」として考えたり、参加したりすることへのハードルも下がり、「自分たちのことは自分たちで決めたい」という考え方になっていくような気がします。
もっと身近なところで言うと、横浜市に残っている大きな森は、市民の活動の成果です。“横浜”と聞くと「大都市」や「海」をイメージするかと思いますが、大きな森が残されている場所がいくつもあります。すごいことに、そこはボランティアの市民によって管理されているのです。通常であれば、持ち主が手放すと開発されるしかない土地です。たとえ横浜市に寄付しても、市の財政だけで森を維持していくことは厳しいでしょう。それを、横浜市が「市民の森」という制度を設けて、市民のボランティアが保全活動を担えるようにしました。チェンソーや鎌で作業している姿はプロにしか見えませんが、もともと会社勤めや主婦をされていた方々です。一緒に見学に行った学生達も驚いていて、「さっそうと作業している姿が格好いい」と。この地域には、森のほかに川や里田を守るNPOが活動していて、それらの団体と行政、近隣の小学校などが連携して、地域の景観と文化を継承していこうと頑張っています。
NPOがもっている社会的なつながりは、別の視点からみると、参加しているメンバーがもっているネットワークの束であり、その人たちの経験によって積み重ねられてきたものです。NPOで活動している方にお話を伺うと、「前は別のNPOにいた」「ボランティアをしたことがある」という方によく出会います。あるNPOでの活動は終了したとしても、その人の人生において、また別の市民活動につながっているのが面白いと思いませんか?「ボランティアは民主主義の学校」と表現した人がいます。ふだんの生活では、自分が「市民」だという感覚はあまりありませんよね。NPOの活動を通して「市民」として考えたり、参加したりすることへのハードルも下がり、「自分たちのことは自分たちで決めたい」という考え方になっていくような気がします。
ご自身の研究領域で、どのように社会をデザインしますか?
市民社会の先輩から学ぶ「よりよい未来をつくる」生き方
全国で市民が数多の取り組みを展開していますが、関係者以外の目に触れない活動も多く、貴重な成功例が時と共に失われていきます。研究を通じて市民の活動を記録し、受け継いでいきたいと考えています。学生も一緒に参加して、自分が市民として社会とどのように関われるかということを考えて欲しいと願っています。
私たちの社会が抱える問題は大きすぎて、身動きがとれないように思えます。そういうときは、問題を小さく分解して、具体的に考えてみましょう。地球の自然環境の保全は何から手をつけたら良いか分かりませんが、近所の森を守る方法は思いつくはず。日本の多くのNPOは人材やお金、支援の不足に悩まれていますが、組織の理念(目指すところ)が明確なNPOは堅実に活動を継続しています。現場にはエネルギッシュな方が多くて、圧倒されることもしばしば。市民の「先輩」の背中から学びながら、一緒によりよい未来のつくり方を考えてみませんか?
私たちの社会が抱える問題は大きすぎて、身動きがとれないように思えます。そういうときは、問題を小さく分解して、具体的に考えてみましょう。地球の自然環境の保全は何から手をつけたら良いか分かりませんが、近所の森を守る方法は思いつくはず。日本の多くのNPOは人材やお金、支援の不足に悩まれていますが、組織の理念(目指すところ)が明確なNPOは堅実に活動を継続しています。現場にはエネルギッシュな方が多くて、圧倒されることもしばしば。市民の「先輩」の背中から学びながら、一緒によりよい未来のつくり方を考えてみませんか?
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