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本の持つ力に励まされて

教員コラム
2011.05.06
現代社会学科
高橋 美恵子

私は本学の教職課程で「教育原理」や「学校の制度」など、自分が専門とする教育学系の科目を担当しています。文学部では中学校や高等学校の英語や社会科、地歴科や公民科の教員免許を取得することができます。

ところで私は昨年の夏、いつか必ず読みたいと思っていた本を読むことができました。その本の名は『児童の世紀』(1900年)、スウェーデンの女性教育者・社会思想家であるエレン・ケイによって著され、発表後たちまち11ヶ国語に翻訳出版され、当時から名著と言われてきたものです。この古い日本語版が、何と私の研究室に2冊あります。1冊は1919(大正8)年初版の原田實訳(新訂7版1930年 大同館書店)で、もう一冊は1960(昭和30)年初版の原田実訳(第9版1970年 玉川大学出版部)です。

 

 
この本は110年以上前の執筆とは思えない「教育」の現状分析と問題意識に貫かれ、21世紀にあっても新鮮さを失わず、学校批判や家庭教育批判などはまさに正鵠を得ており、今でもはっとさせられるところの多い著作です。だからこそ当時とそう変わらない教育の現状に、時代を受け継ぐ者の責任を強く感じてしまいます。彼女がいう「児童の世紀」も「未来の学校」も、まだまだこの世界には実現していないのです。それどころか20世紀は「戦争の世紀」とも総括されています。

 

 
この2冊の本は、その他の書籍とともに、文学部で長年教鞭をとられた名誉教授栗原敦雄先生から譲り受けたものです。先生が退職されるとき、「高橋先生、研究室の本は殆んど片付けましたが、貴重本は残して置きますのでよろしく。」との連絡をいただきました。その数は200冊以上あり、『児童の世紀』を始め今では手に入りにくい書籍ばかりです。なかには『往来物』と呼ばれ、平安時代に発し、書簡形式によって必要な知識慣習を身につけられるよう編纂された和綴じ本もあります。

下の写真は江戸庶民には定番の『庭訓往来』(正徳5年初刊嘉永5年再刻) の最初のページと、『女用文操庫』の表紙です。もちろん木版刷りです。他にも『農業往来』『商売往来』『女大学』、明治期の『帝国女子修身鑑』などが研究室に保管されています。

 

 
タブレット型端末のiPadや電子書籍が、出版革命を引き起こすかも知れないと言われています。けれども関東大震災で版組みが壊滅し、やっと再版された『児童の世紀』を読み進めて行ったとき、時空を異にする著者、訳者、出版人、購買者、読者、古書店主、栗原先生そして私へと、連綿と受け継がれた教育や教育書への熱い思いや願い、祈りまでもが書籍から流れ込んでくるような気がしたのです。この体験は感動的でした。渾身の力を込めて書かれ、大切に受け継がれてきた本には、ひとを励まし理解を促す不思議な力が宿っているとしか考えられない体験でした。。興味のある人は、是非研究室を訪ねてください。

 

(現代社会学科 高橋 美恵子)


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