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共生社会論

非言語的なコミュニケーションは
可能性で満ちている
MUGIKURA YASUKO
麦倉 泰子
担当科目
障害者福祉論、福祉の社会学、共生社会論、ソーシャルワーク実習指導 他
今、もっとも関心がある研究テーマは?
自分の常識や先入観を疑うことから始めてみよう
私は、「障害のある人の自律的な生活を可能とするための仕組みをいかに作っていくか」、「誰もが排除されることのない社会=共生社会を構築するには何をすればよいのか」というテーマで、日本とイギリスを中心に研究しています。自分の常識や先入観が揺さぶられるような言葉に触れたとき、研究の醍醐味を感じます。イギリスで重度重複障害の方のご家族にお話をうかがった時のことです。障害のある息子さんは、一般的にイメージされる「言語」でのコミュニケーションをしない方でした。当時は、地域・在宅での個別援助を利用した暮らしと施設・病院での暮らしを比較し、地域での暮らしの方が生活の質が向上したというエビデンスが得られた、という論文が多く出ていて、私は先入観から「その生活の質はどのように測ることができるのですか」と質問をしたのですが、お母様は「息子は言葉では話さないけれども、病院にいるときには眠っていることが多いのに対して、家で生活している時にはよく笑うのだ」と話してくれました。「言葉によらない」コミュニケーションが存在し、そこには見えにくいけれども、確かな関係性も存在するのだということを言語化していくことの重要性を感じています。言語化することによって、制度を作り、維持し、改善していく、つまり社会をデザインしていくことができます。そこに研究者としての責任の所在を感じています。
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その研究における醍醐味や、やりがいは?
他者に対する想像力を共有し実際に行動に移そう
「脳死に近い」とされる状態で生まれてきた帆花さんと、ご家族、支援者たちとの温かな関係が、静謐かつ穏やかな視線で描かれている、『帆花(ほのか)』という映画をご存じでしょうか。多くの人との関係性が紡がれていく中心に帆花さんがいて、「そこに在る」こと、それ自体が尊いのだと、あらためて気づかされる映画です。印象的なのが、成長していく帆花さんが、さまざまな表情や反応を示すことから、ご家族が、実は脳の動きが活発化しているのではないかと感じ、それを確かめようとする場面です。ここでは、日々交流する家族の経験知のなかから、脳の可塑性が示唆されています。脳の可塑性については、神経科学研究のなかで言及されるようになってきました。医学的に脳死に近いとされた人や、事故や病気で脳に大きなダメージを負った人でも、周囲から刺激を受けることで、本人から発出されるシグナルが徐々に大きなものになっていく可能性が示唆されています。はじめはほんのわずかなシグナルであるかもしれないですが、受け止める側の態度や考え方と共鳴しあったときエコーが広がるように、本人を中心とする社会的状況が変化していくのです。私たちの社会はこのようなポジティブな再帰性によって「進歩している」と考えることができます。問題は、何を「わずか」なシグナルと見なすのか、という社会の意識です。たとえば、昏睡状態(遷延性意識障害の方)をめぐる状況を研究するなかで実感するのは、障害そのものが困難さを生んでいるのではなく、その人が埋め込まれた社会的な状況の方に困難さを生み出す構造があるということです。こうした人が発声した時に、周りの人がその発声に意味を見出さなければ、つまり「言語でない」と見なしてしまえば、そこにコミュニケーションは成立しませんが、逆に、同じ発声であっても、受け止める側がそこに意味を読み取ろうとする態度を持つことによって、意味を成すもの=言語となりうることもあるでしょう。「共生社会」をデザインするとは、こうした他者に対する想像力を共有し、実際に行動に移すことができる人を一人でも多く作ることだと思っています。研究を通して示していきたいのは、こうした他者への想像力を育む可能性です。
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ご自身の研究領域で、どのように社会をデザインしますか?
非言語的なコミュニケーションに可能性が満ちている
大学のある横浜市には、地域で暮らすさまざまな障害のある人の自宅を支援者が訪問したり、障害のある人に最寄りの相談室に足を運んでもらったりすることで、ゆるやかなつながりを維持する制度があります。顔なじみの支援者が、特に連絡しなくても、緊急性がなくても、「元気にしてる?」と定期的に障害者と接する機会があるのです。私はこの活動の検証委員会にたずさわっているのですが、スタッフの方が「自分にもこんな制度が欲しいと思う」とぽろりと漏らしていたのが印象的でした。横浜市は「横浜市障害者後見的支援制度」という、「親亡き後の不安」を地域のネットワークによって支えていくシステムの構築を目指した市独自の事業を、平成22年にスタートしました。家族が担っているケアを社会的に分有するため、本人のこれまでの人生やこれからの生活の希望、身体的な特徴、介護に必要な知識などについて、家族以外にも、継続的に見守る支援者たちを作っているのです。つながりを維持するには、積み重ねられた信頼が必要で、たとえば差し迫った困りごとはないものの、サポーターは、ご本人の好きなことが何か、丁寧に聞き取り、人となりをゆっくりと理解していきます。積み重ねられたその人についての理解と信頼が、「いざというとき」に、その人にとっての「最善の利益」=「ベスト・インタレスト」を考える下地になります。ここで重要なのは、「ベスト・インタレスト」を考えるというのは最後の手段である、という共通理解です。つねに優先されるのは、本人の自己決定であり、周囲の人たちは、あらゆる手段を講じて、本人の意思を確認し、本人に「特定の」判断ができないということが明らかになった場合にのみ、次の選択肢として「ベスト・インタレスト」を考えるのです。また、「会う」という非言語的なコミュニケーションには、その人の「いま」を理解するための重要な情報が存在していることも多く、コロナ禍で「会えない」状況において、日頃私たちがコミュニケーションとして捉えているものが、いかに豊潤な内容を含んでいるものであるか、あらためて示した形になりました。多くの人は、コミュニケーションとは言語を介して行われるものであり、そこに本質・それ以外の情報は副次的な内容だとみなしてしまう傾向があります。学生の方とは、自分達の持っている常識をもう一度見直しながら、お互いの様々な違いに気づき、他者との共生や多様性について、一緒に考えていきたいと思っています。
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