日本では、近年、にわかに空き家問題がクローズアップされてきた。総務省の平成25年の統計(速報値)によれば、日本全国の総住宅数約6000万戸のうち、空き家数は800万戸を超えるまでになっている。にもかかわらず、一方ではホームレスがなくならず、他方では相変わらず新築住宅の建設が続いている。今、話題になっている『里山資本主義』(株式会社KADOKAWA発行)の著者達は、報道取材を回顧するなかで、故郷に帰りづらくなって都会にとどまるホームレスがいる反面、そのホームレスの故郷の事情は大きく変貌、高齢過疎化して空き家だらけになりつつある日本の現状に触れている(234頁)。
空き家住宅は地方だけでなく大都市部でも問題になっているのに、そこでの住宅の確保は下宿学生や若い労働者にとって依然切実な問題となっている。そこで労働福祉分野を研究対象領域の内にもつ産業社会学の授業を担当する者として、ここ数年、ゼミナールでは労働福祉の中の企業福祉との関連で住宅問題も取り上げて来た。労働者の住宅問題は、急激な産業化の過程で、例えば19世紀後半のベルリン(賃貸兵舎都市と呼ばれた)に象徴されたドイツのように都市化とともに深刻化し、社会主義的な住宅政策、協同組合による住宅建設、田園都市構想、大企業による労働者社宅の建設等が生まれるきっかけになっている(相馬保夫『ドイツの労働者住宅』山川出版社)。戦後の日本は、産業化による地域開発政策の下で都市化が進むなか、高度経済成長期には大企業中心に若い労働者を確保するための社宅等の住宅支援策が、またその後も景気浮揚のための経済政策による持家援助策がとられてきた。その結果、大企業のような雇用の比較的安定した企業に就職し世帯を構えることができる若い労働者はマイホームを持つことが可能になったが、そのようなメインルートを外れた者は都市の厳しい住宅問題に直面するようになった。1980年代後半のバブル経済(土地・住宅のバブル)が1990年代前半に弾け、失われた○○年と称される国内経済の不安定な状況が続く現在、そうした傾向は一層顕著になっている。
自動車産業と並び産業の裾野が広く、共に今日の産業化を牽引している住宅産業は、アメリカの住宅バブルの崩壊が世界金融危機にまで及んだように、経済社会全体に与える影響が非常に大きい。同様に大きな影響力を持つ自動車産業の発展は国内交通網を従来の鉄道網中心から自動車道路網を主としたものに再編してきたが、その結果、少子化・高齢化と過疎化が進む地方の交通の足の便はますます自動車運転免許の有無に左右されるようになった。現在、自動車産業は充電できるハイブリッド車等を通じて住宅産業とのつながりを持ち始めているが、若者の雇用が不安定化し少子化・高齢化が進むなか、金銭的に或いは体力的にマイホームやマイカーの所持は容易でなくなってきており、その意味では、どちらの産業もその持続可能性が問われているとみるべきだろう。
人間の居住生活の要である住宅の問題は、経済的視点や統計データからだけではなく、より総合的に認識することから始める必要がある。そこで、現在ゼミナールでは社会学的総合認識の方法を用いて授業を進めているところである。
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空き家住宅問題について
教員コラム
2015.02.21