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水野広徳のこと

教員コラム
2015.01.30
現代社会学科
中村 克明

 皆さんは、水野広徳という人物を知っていますか。彼の名前は教科書にも載っていませんし、ほとんどの人が知らないのではないでしょうか。でも、歴史の表面に表れなくても立派なことをした人はたくさんいるのです。水野もその一人といっていいでしょう。
 
 水野は、戦前、海軍大佐にまで登りつめた軍人でした。日本海海戦で名をはせ、その戦いの様子を書いた本は爆発的な売れ行きを示したといいます。軍人として将来を嘱望されていた水野は、第一次世界大戦を見学するため、ヨーロッパに出かけました。そこで、水野が見たものはあまりにも無残な状況だったのです。人も動物も植物も、その姿はなく、都市は破壊し尽くされていました。
 
 この状況を見た水野は、それまでの考え方を大きく転換しました。彼は、戦争を憎み、軍隊の存在を否定するようになったのです。もっとも、彼の軍隊否定は理想としてのものであって、必ずしもその全廃を直ちに要求するものではありませんでした。しかし、今まで軍人として活躍してきた人間が、戦争否定の平和主義者に転換したわけですから、世間からは驚きの目で見られたことでしょう。平和主義者として軍部、政府を批判したため、彼は戦争中、その発言を封じられました。常に監視つきの生活が始まりました。でも、軍閥批判は終生変わることがありませんでした。彼は世間から非国民、売国奴と罵られ、自分の息子の戦死の事実も知らず、敗戦直後、病気で亡くなりました。残念なことに、彼は自分が望んでいた平和日本の姿を見ることができなかったのです。彼の歌碑には、次のように刻まれています。
 
「世にこびず人におもねらず 我はわが正しと思ふ道を歩まむ」
 
水野の生き様に感動するのは、私だけでしょうか?
 
 
 
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