大学の制度であるサバティカル研究期間を利用して、2025年度はアメリカ合衆国ワシントン州シアトル市で地域コミュニティについて研究を行っています。今回は、お友達のヘンリーさんに誘ってもらって参加した、ブロック・パーティについてご紹介します。
雨や霧のイメージの強いシアトル市ですが、夏の間はとても日が長く、みなさん太陽の下で活動するのが大好きです。その夏の間に、シアトル市内のあちこちで、ブロック・パーティが開かれています。ブロックとは、道に囲まれた一区画のことを指します。ブロック・パーティの場合には、家の前の道の両端に立て看板を立てて、ひとブロック分道路を封鎖して行います。今回参加したパーティは、2つのブロックのおよそ80世帯に対して、主催者の住民が声をかけて行われました。ヘンリーさんは主催者の一人です。
今回参加した地域のブロック・パーティは、30年以上にわたって毎年行われており、開催するたびに、参加者に名前・電話番号・メールアドレスを確認しています。パーティを開催する前に、連絡先を把握している人たちにはメールを送り、開催の対象となる2ブロックにチラシをポスティングしたと言います。参加者は多い時間で40人ほどいたでしょうか、入れ替わりで50人以上は参加していたと思います。子どもたちはチョークや風船などで遊び、年配の人たちは椅子に座ってくつろぎながら会話を楽しんでいました。
食べ物は持ち寄りで、手作りの一品とお菓子の袋とを家族ごとに持参していました。アメリカらしいクリームたっぷりの焼き菓子や、ポテトサラダ、アオカビチーズたっぷりの手作りのビスケットも美味でした。私はといえば、初めての参加で勝手がわからず、おせんべとクッキーを購入して持参しました。日本に18年住んでいたというサイラさんが小さなおにぎりをたくさん握ってきていて、なるほどと思いました。日本のから揚げなんかも喜ばれそうです。早めに帰る人は、持ってきたものを持参した容器ごと持ち帰っているようで、最後まで残っていても残り物が多すぎて困るようなこともなく、片付けも簡単でした。みんなで何かを食べながら過ごすことは、コミュニティ形成にとってはとても有意義ですが、準備が大変です。アメリカには「ポットラック・パーティ」という習慣があり、参加者が一品ずつ持ち寄ってパーティをします。これなら主催者の負担も少なく、たいした費用もかからないため、気軽に開催できるのではないかと思いました。

さて、ヘンリーさんは、日本から来ている私と友人を、近隣の人達に次々に紹介してくれました。お嫁さんが日本人で息子と孫が日本にいるおばあさんや、親戚が北海道に住んでいるという若いお母さんもいました。先ほどのサイラさんは、日本で18年間英語の講師などをしていて、今はシアトルの日本関連企業で通訳の仕事をしているそうです。こんな風に、初めて会った人たちがそれぞれの共通点や、何気ない会話を楽しんでいました。この時に初めて会う近隣の人同士も、「あなたの家の色いいね」といったように、近隣だからこそのお話が弾んでいました。時には、国や自治体の政治について議論する場ともなっているとのことです。小さな子どもたちにとっては、お互いが知り合って仲良くなる機会となり、ティーンネイジャーたちが、食べ物につられて地域の人たちに顔を見せる機会にもなっていました。
ヘンリーさんは、参加するつもりがないような近隣の通行人一人ひとりに、「クッキーを食べていかないか」と声をかけていました。こんな風にして、毎年参加者を増やしているのでしょう。たったの2ブロックのこととは言っても、毎年何軒か入れ替わりがあるようです。ブロック・パーティで出会うことで、近隣でのコミュニケーションが生まれます。参加者の一人は、「コロナ禍は近隣の大切さを教えてくれた、近隣同士の助け合いが必要だ」と言っていました。近年日本では、近隣に住む人のことを全く知らないという人も増えています。シアトルでも同様であり、ヘンリーさんたちのブロックでは、こうしたパーティで近隣の出会いがあるものの、まったくつながりのないようなブロックもあるのだそうです。
シアトル市では、このようなブロック・パーティが行えるように、道路の封鎖をオンラインで申請することができます(参加者100人以下で1ブロック以内の閉鎖、幹線道路でないことといった制限があります)。日本でも、気軽に近隣のパーティを「持ち寄り」で行う習慣が流行ったら楽しそうですね。