2023年10月~2024年3月まで在外研究で韓国の釜山に半年間滞在してきました。
韓国の図書館の最新事情を調査するのが目的でしたので、数多くの図書館を訪れましたが、
従来の図書館の枠に留まらない施設の整備も進められていました。
特に釜山広域市では、子ども達の居場所となる児童館・公民館・図書館を融合した文化複合施設の整備が急ピッチで進められています。
この文化複合施設は「トゥラッナッラ(들락날락)」という名称がつけられており、日本語に直訳すれば「出たり、入ったり」という意味があり、気軽に訪れてほしいという願いが込められています。
子どもの生活圏内である徒歩15分圏に網の目のように整備する目標を立てており、釜山広域市内では急ピッチに「トゥラッナッラ」が設置されています。
韓国では「公共図書館」だけではなく小規模図書館も「小さな図書館」として法的根拠に基づいて整備がされています。
「トゥラッナッラ」はアナログとデジタルを融合させた新しいコンセプトの遊びと学習の融合空間であり、AIを活用したデジタル技術と文化・芸術・活動を組み合わせた体験型活動・図書館サービス・子どもたちの創造性や読解力向上のための様々な読書文化プログラム展開しており、図書館とも親和性が高いため、図書館に併設されることも多いです。
今回は、2024年3月に開館したばかりの「田浦オウルトウル複合センター」の中にある「小さな図書館」を紹介します。
1階が保育園、2階がキッズカフェとおもちゃ図書館(日本の児童館のような施設です)、3階に「トゥラッナッラ」を展開する小さな図書館が入居している複合施設です。
◆デジタルアクアリウム
入口横には写真2のような水族館を模した大型ディスプレイがあり、自分でデザインした魚を登録することができます。
図書を借りるなどの読書体験をすることで自分の魚がレベルアップをしていきます。
◆英語学習コーナー
韓国は英語教育が盛んで就学前から英語教室に通う子供達も少なくありません。
しかし、こうした英語教室の月謝は高額なものもあり、保護者の高負担が社会問題となっています。
こうした教育格差を是正する目的もあり、英語学習コーナーが設けられています。
英語の絵本だけでなく、AR(拡張現実)の絵本もあり登場人物が絵本から飛び出てきて物語が展開していきます。
写真4は左側の人物は絵本に書かれていますが、中央の女の子や左右の風景は、写真上部にあるAR機器によって投影されたものです。
登場人物が動きながら、音声で物語が語られ、読み上げられている部分はハイライトで表示がされ、観ながら楽しめるAR絵本になっています。
他にも英語学習コーナーには英語学習アプリが入ったタブレット端末も用意されており、ゲーム感覚で英語を学べるようになっています。
◆幼児コーナー
小上がりコーナーになっていて、靴を脱いで利用します。
幼児向きの絵本が揃えられているだけでなく、カラダにフィットするソファも置かれており、寝そべったり寛ぎながら読書することができます。
こちらも図書だけでなくICT技術を利用したコンテンツが展開されています。
写真7は「読み聞かせをしてくれる猫ロボット」です。
専用の絵本カードを左側の猫ロボットに差し込むとディスプレイで絵本の読み聞かせをしてくれます。
◆メディア体験コーナー
メディア体験コーナーでは、冊子体の児童書はもちろん、様々なICT技術を利用したコンテンツが楽しめます。
「VR体験型ストーリーテリング」は電子ディスプレイのカメラで子ども達を映し出し、
物語の登場人物と一緒になって物語を楽しむことができます。
写真8は私もピノキオの物語の中で、おじいさんと一緒にピノキオの人形作りの製作を手伝っているところです。
「AI感情ロボット『リク』」は、子どもの表情や動きをAIが理解してコミュニケーションをするロボットです。
気軽にロボットと触れ合うことでデジタル機器への興味関心を引き出します。
このようにアナログの図書を読む従来型の読書もでき、ICT技術を使用したデジタル読書もできるハイブリッドな図書館となっており、
「トゥラッナッラ」は近未来の図書館のあり方を示すものだといえましょう。