新年度が始まり、授業の中でつい勧めてしまうドラマがある――日本で女性初の弁護士、三淵嘉子さんをモデルにしたNHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』(脚本:吉田恵里香さん)である。
なぜ社会学部で学ぶ皆さんに勧めたくなるかというと――そのすべてをここで語りつくすことはとてもできないのだが――理由の一つに、自分の持った違和感に「はて?」と立ち止まって考える主人公、猪爪寅子の視点が、社会学にとって欠かせないものだということがある。
社会学という学問は、それぞれの個人が抱える(一見して個人的な)問題について、その個人自身に原因があると考えるのではなく、社会の仕組みにこそその原因があると考える視点を持つ。寅子が投げかける「はて?」は、まさにそうした社会学の視点に通ずるものとなっているのである。
たとえば物語の序盤、寅子はお見合いの席で時事問題についての持論を展開する。しかしそれが相手の男性を怒らせ、「女のくせに生意気な」と捨て台詞を吐かれる。寅子はこうした状況に対して、「はて?」と漏らす。
女が時事問題を語ると、なぜ男は怒り、そして女はなぜ「生意気」扱いされるのか――「女は静かにしておくべき」という社会に埋め込まれた規範に、寅子は疑問を呈するのである。寅子自身の中に問題を見出すのではなく、寅子の振舞いを「問題」として扱う社会の側に疑問を呈する彼女の視点は、社会学の視点そのものだといえよう。
このドラマでは今のところ、ジェンダーや階級、そしてその交差をめぐって社会が生み出す問題に焦点があたっているが、登場人物を見渡してみると、人種・民族をめぐって社会が生み出す問題にも焦点があたりそうであり、その意味でも目が離せないものとなっている。
社会学という学問は、寅子のように日々の生活の中で持った違和感を何より大切にし、そこから社会のあり方を批判的に考察してきた。社会学を学ぶ皆さんにも、ぜひ日々の生活の中で浮かんできた「はて?」を、ぜひ手放さず、大切にしてほしい。たとえ一見些細で個人的なもののように思えても、その違和感が「自分なりの」社会学の第一歩になるはずである。