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草の根からの共創によるモノづくり

教員コラム
2013.03.25
現代社会学科
浦野 和彦

今、話題になっているクリス・アンダーソン著『メイカーズ』(MAKERS:The New Industrial Revolution)NHK出版、を読んでみた。そこには、「ウェブの世界(ビットのデジタルワールド)」で生じた流れが、ウェブ・オープンソースとオンラインでの共創により、「場所やモノの存在する現実の世界(アトムの世界)」におけるデスクトップ・ファブリケーションを基盤にした広範囲なDIYの産業化(発明家から起業家へ)の可能性を広げつつあるという、興味深い変化が述べられている。現在でもパソコンとプリンターと簡易デスクトップ製本機があれば自著一冊が自宅で製作できてしまうから、今後近いうちにさらに3Dプリンター、CNC装置、レーザーカッター及び3Dスキャナーの「4種の神器」によって自宅のデスクトップ工房で自分好みのモノ作りがかなりできるようになるのかもしれない。工学技術的なことはともかく、ここで興味深いのはメイカーのコミュニティによる共創と草の根の小規模企業やベンチャー企業の将来展望である。

能力を発揮して人の役に立ち生計も維持できる職業(産業)労働の3要素を十分満たすことのできる意義ある仕事に誰もが就きたいと願っていても、巨大企業が推進する経済のグローバル化の現状は、リーマン・ショックや欧米の金融財政危機にみられるように景気の急速な変動がただちに社会の隅々にまで波及し、そのような意義を持つ職業(産業)労働が過酷で不安定な、特に若者にとっては就職自体が難しいものになりつつある。一方、日本の東日本大震災とそれに伴う原発事故の放射能による環境汚染は、その広域的かつ長期的な社会への破壊的影響の深刻さをあらためて再認識させた。中国等の急速な工業化が進む国々の公害・環境汚染も同様に深刻である。このような事態はこれまでのような工業化による経済成長の在り方への根底からの問い直しを迫るものといえる。実際、根なし草のように国境を越えるグローバル企業の営利活動に対抗するかたちで、非政府組織(NGO)や共益・公益を追求する自発的で多様な社会的活動を行うローカルな結社や組織が草の根から数多く現れてきており、これらの一部に労働や福祉の問題への取り組みを部分的に契約で委託し、そのための条件整備を行う新たな国家の役割も生まれている。

自主的・自立的に社会的起業を行い或いは社会的企業を立ち上げ、労働市場から排除された人々の自律的な労働への再参入を支援し又は労働を創出したり、新たなサービスの創出や公的給付から排除された人々等への社会サービス・コミュニティケアサービスを対等なかたちで供給しようとする動きは近年増しつつあるが、そこでは多くの場合、活動資金の確保や組織の運営技術の問題を抱えているだけでなく、そうした動きの支えになるきめ細やかなモノ作りの技術もまた見落とされがちである。今後、メイカーのコミュニティのような草の根からのモノ作りとのコラボが進んで行ったら、これまでとは別の新たな展望が切り開かれるかもしれない。


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