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生活保護制度と「納税者の理解」

教員コラム
2014.09.10
現代社会学科
西村 貴直

 1950年の成立から60年以上が経過した「生活保護法」ですが、昨年12月に初めて本格的な法改正が実施されました。受給者の就労支援や不正受給対策の強化といった内容が盛り込まれています。法改正の実現までには様々な紆余曲折があり、内容についても賛否両論ありますが、貧困問題の改善傾向が見えない状況のなかで、生活保護をめぐる議論は、今後もますます活発に行われていくことは確実です。

 

 生活保護制度のあり方を論じるなかで重視される論点のひとつに、「納税者の理解」というトピックがあります。生活保護に関する報道記事や論説文のなかに、「納税者の理解」や「納税者の視点」といった表現はかなり広範にみることができますし、今回の法改正に至る議論においてもかなり強く意識されています。生活保護の財源はすべてが公費(税)であるから、その直接的な負担者である「納税者」の理解を得る努力を強調するのは当然だという考え方も十分に理解できますが、今回のコラムでは、生活保護制度のあり方を「納税者の理解」という観点から評価することの是非について考えてみたいと思います。

 

 生活保護制度における「納税者の理解」が問われる際に注意しなければならないのは、そこで生活保護の「受給者」は「納税者」ではないという考え方が、暗黙のうちに前提とされていることです。この考え方は、生活保護の受給者を、「納税」という国民の義務を果たさずに制度の恩恵だけを享受する「受益者」とみなす一方で、その対極に見返りのない負担だけを強いられる「納税者」を位置づける発想とつながっています。このように受給者と納税者を対立的な関係のもとで捉えようとする発想は、生活保護を受給している人々に対する有形・無形の圧力へと転化しがちです。それが行き過ぎると、地域住民による受給者の「監視」や、ケースワーカーによる違法な対応といったかたちで、受給者に対する深刻な人権侵害を引き起こすこともあります。

 

 しかし、生活保護の受給者と納税者を対立関係のもとで捉えてしまうと、現時点において生活保護を受給している人々の多くも、かつては税を納める側にあったという単純な事実を見落とすことになります。そして現在では、生活保護の受給者であっても価格に転嫁されている消費税の負担を免れることができません。逆に、多くの「納税者」も、政府が実施する様々な制度・政策を通して、自分が実際に納めた税金の額面以上の恩恵を享受しているはずです。日本という社会の中で暮らしている以上、誰も「税」の負担から逃れることはできませんが、それは誰もが「支えられる側」でもあるという事実の裏返しです。この単純な事実は、生活保護について考えるときにこそ思い起こしてほしいと思います。

 
 
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