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ケアマネジメントから本人中心計画へ―イギリス障害福祉改革の現在

教員コラム
2014.07.29
現代社会学科
麦倉 泰子

今回のコラムでは、イギリスの障害のある人に対する福祉制度がどのように改革されているのかを中心に書いてみたいと思います。

 

2000年代のイギリスにおいて、福祉制度改革のキーワードとなっているのが「パーソナライゼーション」という言葉です。福祉制度に関する予算を徹底的に個別化し、一人一人の希望に合わせた支援を組み立てていくことを意味します。日本においては、福祉サービスは、身体機能や周囲の人とのコミュニケーションにおいて他の人からの手助けを必要とする人に対して、現物のサービスが支給されるという形式が基本です。イギリスでは、この方法を根本的に変化させました。つまり、サービスを支給するのではなく、ニーズに見合う額の現金を支給するという方式の確立です。これは「ダイレクト・ペイメント」と呼ばれます。1990年代の末に成立した制度です。

 

なぜこのような制度改革が必要とされたのでしょうか。そこには、障害のある人たちがこれまで受けてきた隔離と排除の歴史があります。障害のある人たちの多くは、近代化の歴史の中で働く術を奪われ、地域社会から隔離された大規模な施設の中での集団生活を余儀なくされてきました。

 

こうした状況を変えるために、イギリスでは1970年代から障害をもつ当事者たちが社会変革のための運動を展開してきました。この運動の中で求められてきたのは、地域の中で当たり前に暮らすこと、その人らしい暮らしを支えるための介助者(=パーソナル・アシスタント)が必要であること。さらに、どんな人に介助をしてもらうかを自分で決めること、でした。ケアのニーズがあると認められた人に対し,直接的なサービスを支給する代わりに現金を給付するというダイレクト・ペイメント制度の成立は、障害者運動が長く求めてきた目標であったのです。

 

当初、このスキームはお金の管理や支援計画の立て方が難しいなど、知的障害のある人にとっては使いにくいものでした。しかし、現在ではより利用しやすく柔軟な制度として個別予算=「パーソナル・バジェット」と呼ばれる制度が開発され、さまざまなニーズのある人に広く使われるようになっています。

 

この制度の詳細は省きますが、このなかで重要になってくるのが、個人の希望を支援計画として実現していくための方法です。パーソナル・バジェットのシステムは使途の自由度が非常に高いものです。本人の希望を出発点に、家族、友人や近隣の人々とのネットワークをもととして、一から支援計画を作っていくことができます。地域に根差したビジネスの開発なども可能です。一つ一つの支援の方法がまったく異なるため、それぞれの事例を「ストーリー」として支援者、行政の担当者が共有していくことが必要になります。

 

従来から行われていた社会資源、サービスの組み合わせを意味する「ケアマネジメント」からの根本的な考え方の変化を意味するこの手法は、「本人中心計画=パーソン・センタード・プランニング」と呼ばれます。

 

こうした支援をめぐる文化の根本的な変容ともいうべき動きは、日本の現在の障害のある人への支援を考える上で非常に参考になるものです。私の現在の研究テーマは、日本において同様の予算システムの実現と、パーソン・センタード・プランニングの普及を図るためには何をしたらよいか、というところにあります。

 

写真は、障害をめぐる文化変容の一つの事例として、リバプールを拠点として毎年行われているイベントである「DaDa Fest―The Festival of Disability and Deaf Arts」のパンフレットです。さまざまな障害をもっている人たちが、障害をアートの表現方法の一つとして見せていく非常に興味深い試みです。

 


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