すでに知っている方も多いとは思いますが、今年の7月12日に厚生労働省は、2009年時点におけるわが国の「貧困率」が16.0%であることを公表しました。これは、全国民のおよそ6人に1人が貧困状態での生活を強いられている可能性を示したものです。またこの数値は、前回の調査よりも0.3%悪化しており、過去最悪の状態を
さらに更新しているとのことです。さらに国際的にみてもわが国の貧困率は高いグループに属しており、いわゆる「先進国」のなかでは、アメリカについでトップクラスの位置にあります。
ちなみに、ここでいう「貧困」とは、OECD(経済協力開発機構)が国際比較を行うために設定した基準に基づくものです。具体的には、「税金や社会保険料を差し引いた手取り所得(可処分所得)」が、全ての世帯の所得分布においてちょうど「真ん中に位置する世帯」(中央値)の「半分に満たない水準」で暮らしている人々が「貧困者」としてカウントされます。この基準を下回ると、その社会で当たり前に享受されるべき「人並みの」生活を送ることが著しく困難となるであろう、という想定に基づいています。実際、こうした推計を裏づけるように、生活困窮に陥った人々を救う最後のセーフティネットである生活保護を受給している人々も急増しており、全国で200万人を超える現状にあります。
最近までの長いあいだ、日本では、貧困はすでに解決された問題として捉えられてきました(実際には「見えなくなっていた」だけなのですが)。わたしが大学に入学したころ(1995年)は、貧困が人々の意識に上ることはほとんどなく、生活保護を受給する人も今の半分に満たない状況にありました。しかし、ちょうどその前後を境として多くの人々の生活状況は徐々に悪化していき、2000年代の後半には「貧困」が広くありふれた日常的な光景として、多くの人々の目の前に再び登場してくることになります。
そして今年起きた東日本大震災によって、さらに多くの人々が貧困に陥ってしまう可能性が指摘されています。
もちろん、全体の数をみただけでは、貧困の現状を十分に理解することはできません。どのような人々が貧困に陥りやすいのか、貧困状態にある人々はどのような生活を強いられているのか、具体的な情報を収集することによってはじめて、具体的な対策を講じることができます。近年では深刻化する貧困問題を背景として、貧困に関する学術誌も公刊されるようになっています(写真)が、こうした資料を題材としながら、「専門ゼミナール」や「公的扶助論」といった講義科目の中で、多くの学生と一緒に、貧困問題との向き合い方について議論を深めていきたいと考えています。