~ハチさんのこと~
2015年夏、あしながバチが自宅スクーター置き場(屋根下)に巣を作った。
さほど大きくはなかったが、夏前には直径15センチほどの巣となった。スクーター通学の私は、毎日2回、巣の状態を確認しているのだが夏休みは家内の実家岩手に帰省するため1カ月ほど留守にしていた。何とその間に駆除されてしまったのである。聞くところでは、お隣の方が危ないとのことで駆除されたようであった。親切心からのこと故、只ひたすらに残念に思うばかりであった。
秋のある日、小さなハチさんが2匹同じ場所に巣を作り始めた。ここからが、私の声援開始である。小さなあしながバチであったので巣は余り大きくはならなかった。冬になり寒い日が続き心配であった。朝様子を見ると、ハチは1匹になっていたが懸命に巣に張り付いていた。1匹の行方を心配したが、1匹でも残り、心からホッとした。
ハチは餌をとるためか日中はどこかに行き姿が見えず心配であったが、夕方になると必ず帰ってきて安堵した。毎日毎日、「ハチさん」と声をかけていた。2016年の6月、大きくなったハチさんが余りにもじっとしているので近づくと、どうも巣にぶら下がったまま死んでいるようであった。この時の悲しさは譬えようがないものであった。
2日ほど見ているといつの間にか巣から落ちていた。そっと拾い埋葬することにした。大きく、立派なハチさんであった。
これまでにハチの巣は何度も見てきたが、今回は、私の愛車(大型スクーター)置き場の中でもあり、冬の中むき出しの巣に張り付いて頑張ったハチさんであったので一際愛着が湧いた。大きなエンジン音をものともせず悠々と巣を守り続けていた。その後、親のいない巣から小さなハチさんが2匹生まれた。嬉しくてそっと見守っていたが、間もなくオオスズメバチがおそって逃げてしまった。今頃は山のどこかで、ひっそりと母バチのあとを受け継いで子育てをしていることと思い祈っている。
~トランプ大統領と「重商主義」(国富の追求)政策のこと~
「重商主義」は私の専門研究の一つである。英語では Mercantilism という。この用語はかのアダム・スミス(1723-1790)が『国富論』(Wealth of Nations,1776年)で命名したことで知られる。イギリスに育ったスミスは植民地放棄論を述べる一方、16世紀以降続く極端な保護貿易によるイギリスの国益第一主義(重商主義)を廃止し、自由貿易による「諸国民の富」を訴え『国富論』を書くに至った。スミスは哲学者(倫理・道徳論)としても知られ主著の一つ『道徳感情論』を残した。シンパシーによる他者への同感論である。かいつまんでいえば、スミスは自由貿易の奨励による各国の繁栄を目指すべきとして「重商主義」を批判したといえる。ただし、100戦錬磨のイギリスにおいて、スミスは「防衛は富よりも遙かに重要」との名言を『国富論』に残した。それほどにイギリスは、海軍力の維持・増強を国家の生命線(なくてはならないもの)としていたのである。
ちなみに、7つの海を支配したエリザベス1世が逝去する1603年に誕生した徳川幕府は約200年にわたり「鎖国」政策を遂行した。「鎖国」下では海外渡航の禁止のもと、大船建造の禁止が命じられイギリスの生命線であった軍艦は不要とされた。この政策によりほぼ200年の間、日本は対外的平和政策を継続する結果となった。海外貿易は長崎に集中管理され、制限された(とはいえ、毎年多くの砂糖、漢方、織物などが輸入された。日本はこれを銅と海産物輸出で相殺していた)。この間、食糧輸入は飢饉年を含め一切見られていない。その背景にあるものは米を中心とする農業生産の豊かさであった。これを私は「農業型『重商主義』(国益追求)と呼んでいる。
19世紀後半の開港以来、将来にわたって「鎖国」は不可能となった。ひるがえって、トランプ大統領は21世紀に「アメリカ第一主義」を掲げ、アメリカ独自の排他的国益論を訴えている。日本のように豊かな農業生産力を背景とする自給自足的「国富の追求政策」(農業型「重商主義」)が不可能な今日にあって、一国勝利型の追求ともいえるトランプアメリカはどうなるのであろうか。ヨーロッパの歴史を見る限りにおいて(一国平和型の日本は例外として)、「重商主義」(もしくは「重商主義」的な)政策は長続きすることがなかった。
~むすび~
私の観察する限り庭のハチさんは他者を犠牲にしているようには見えず、せっせと巣作りをし、子育てをしていた。花粉を貰う代わりに受粉をして豊かな果実を木々にもたらすことになった。持ちつ持たれつである。トランプ大統領の掲げる「アメリカ第一主義」は、極端な保護主義を基調とするかつてのヨーロッパ「重商主義」に酷似している点が気になっている。スミスが『国富論』に説いたように、「互恵」(レシプロシティー)の精神こそが今必要とされているのではないか。
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思いやりの心を大切に
教員コラム
2017.02.10