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絶対的貧困と相対的貧困

教員コラム
2016.01.08
現代社会学科
石川 時子

 関東学院大学に赴任して2年目になりました。近年、大学の授業は双方向型の「アクティブ・ラーニング」が求められていますが、私にとって初めての160名以上の大規模授業で、どのように学生の意向を取り入れていくのか、苦心しています(なにしろ壇上から最前列の学生まで10mくらい距離があります)。20名以下で行う、社会福祉士資格取得のための演習の授業では、ほぼ毎回学生の意見を求めディスカッションを重ねますが、大講義では学生の声を知るために、コメントペーパーを何度も書かせ、次回の授業でそれを紹介して内容に反映させるようにしています。今回は「社会福祉概論Ⅱ」で行った、絶対的貧困と相対的貧困の授業についてお話ししたいと思います。
 
「絶対的貧困」:一日の所得が1.25ドル以下の生活(世界銀行の定義)、世界に12億人以上がその状態である。
「相対的貧困」:当該社会での貧困線(等価可処分所得の中央値の半分、日本の場合125万円前後)以下の生活水準である。
 
 この定義を、暗記ではなくどうリアリティをもって受け止めるか、今年度は、初めての試みとして講演を取り入れたことと、私が過去に行った授業と本学の比較を書きたいと思います。
 
 10月19日に作家の石井光太さんをお招きして、「絶対貧困~世界の貧困現場を歩く~」という講演を実施しました(これは人文科学研究所主催の事業の一環で助成を受けております。詳しくはこちら)。多くの学生が日本とは異なる、ストリートチルドレンの現状、それも相当残酷な、マフィアに手足を切断される子ども、抗争に負け怪我をさらして物乞いをしている少年、売春で生きていくしかない少女の写真を見て衝撃を受けていました。その日暮らしの喰えない生活、「絶対的貧困」という現実が世界にあることを、石井さんの話からリアルに感じたことと思います。多くの学生が、「知ったけれど、自分ができることはほとんど何もないという現実に苦しさを感じる」、とレポートに記していました。
 
 もう一つは、私が過去何回か行っている「子どもに関する社会的必需品」の意識調査です。
 
写真1(400)
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画像拡大
(これは阿部彩(2008)『子どもの貧困-日本の不公平を考える』p186-7を改変しています)
 
 授業内ではまず、表の当てはまる箇所に○をつけてもらいます。この時点では単に「答えてください」としか学生には言いません。次に、「自分の子どもだったら、を想像して当てはまる箇所に△をつけて下さい」と言います。そうすると、多くの学生が「与えられなくても仕方ない」から「絶対に与えられるべき」の項目に変化し、自然と、自分が「未知の他者あるいは自分なら我慢できる(はず)」と漠然と考えていたことが、「大切な人」を想像した場合には変わること、あるいは過去の自分が与えられてきたものを振り返る、という気づきに至ります(まれに厳しくなる人もいますが)。この授業では、「相対的貧困」が実際の生活ではどんな意味を持つかを、持ち物や食事などで具体的に考えてもらうこと、更に、自分たちの考え方は漠然と他者に厳しいのに、自分が享受しているものは豊かである、という現状を再考してもらいたいと思って行いました。2015年度の受講生は、講演の後のせいか、秋学期に行ったせいか、他大学で行った同様の調査よりも圧倒的に「優しい」回答が多くなり驚きました。
 
 学生の多くは、自分たちが漠然とマジョリティだと思っています。しかし、世界の中ではマイノリティの豊かさを持っていることや、日本の中でも見知らぬ他者がどういう状況にあるのか、よりリアリティを持って考えていってほしいと思っています。それはただ単に、「知る」に止まるかもしれません。しかし、知らないまま、苦境にある他者を攻撃(口撃)するようなことがあってはならないと考えています。そしてこの中から、他者への支援が具体的にできる学生が育ってくれることも願っています。
 
 
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