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苦手なこと

教員コラム
2015.03.20
現代社会学科
石川時子

 平成24年度の児童虐待相談対応件数は6万6701件、虐待のニュースも毎週のように目にし、虐待=児童相談所に通報、という認識も、既に定着したように思います。
 
 私が社会福祉に関心を持ったのは、当時やっと認知され始めた児童虐待からでした。それまでは躾か体罰か虐待か、時には叩くことも必要だ、と言った意見も多くありました。現在では虐待はそういうレベルではないことが認識されていると思いますが、一方であまりにも虐待のニュースが多く、痛ましい事件にも感覚が麻痺し、記憶に残らない、という方も多くいるのではないでしょうか。
 
 私には忘れられない事件があります。2010年に起きた、大阪二児餓死事件です。(この事件はルポライターの杉山春さんが克明に記されています。「ルポ 虐待-大阪二児置き去り死事件」筑摩書房)。母親が4歳と1歳の子をマンション一室に閉じ込めて帰宅せず、餓死させた事件は、母親の生活ぶりや生い立ちを含めて連日報道されました。この事件が特別に忘れられないのは、私自身が初めての子を産んだ年だったからです。わが子と亡くなった子を比べ、亡くなった子の魂の行き場や、向き合うことが出来なかった母親の心境を想像し、泣きながら報道を見ました。
 
 児童虐待に初めて関心を持った学生時代や、ソーシャルワーカーとして歩みだした20代前半は、虐待事件に対して、ただただ、親を許せない気持ちや子どもを守るという正義感があったように思います。しかし、自分が親となってからは、一気に児童虐待が恐ろしくなってしまい、ニュースとして目にするのも苦手になってしまいました。子どもの悲しみや、親の孤独感など、感覚的なものが勝ってしまい、「事例」として捉えることが出来なくなったのだと思います(大阪の事件も、母親が子ども二人を連れて、頼れる人からどんどん遠ざかっていく様子が書かれており、その心境を思うと呆然とします)。
 
 かつて、ソーシャルワーカーの大先輩に、子どもを持ったら児童虐待が苦手になって、子どもが小学生になったらいじめや不登校相談が苦手になって、中年になったらDVが苦手になって、そのうち介護問題が苦手になって・・・と、経験年数が増えても、経験が近すぎて相談が苦手になる分野がある、と教えられました。
 
 人生の経験は、相談者全てに対応できるほど広げることはできません。経験しているからこそ分かることと、経験していないから分からないこと、経験しているから苦手になること、など、経験の捉え方にも色々あります。しかし、自分が経験できないことにも、感受性と想像力を働かせることはできます。社会福祉士の実習に行った学生の報告で、実習先の子どもたちのことを想って、言葉に詰まる場面がありました。その子のことを想って、言いよどむ気持ち、言葉に出来ない辛い気持ちがあったのでしょう。
 
 ソーシャルワーク教育では、言語化を重要視します。しかし、時には、言葉に表すことが出来ないような感情や、言いよどむほど真摯に向き合い、苦手だと思うような経験との照らし合わせも、そのまま抱えていくこと、現実に向き合うしかないことも伝えていきたいと思っています。
 
 
 
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