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児童虐待、児童相談所、一時保護。その先は?

教員コラム
2019.03.22
現代社会学科
石川 時子

 2019年3月5日現在の段階で、児童虐待防止の対応策として「子ども家庭福祉士」(仮称)の新資格が議論されている。超党派の国会議員らが子ども家庭分野の新資格について議論しており、議員立法として検討されている。一方で、日本社会福祉士会、日本精神保健福祉士会といった既存の資格職の団体からの反対意見や、社会福祉分野の研究者、学校教育連盟の有志からは反対意見があがっている。現時点では、私も新資格の創設には反対であり、その意見を述べたい。
 
・資格を作って終わりではないかという懸念。その間に割かれるべき予算や人員、児童虐待防止の検討が等閑視されてしまうのではないか。
・人材が実際に活躍できるまでに相当の時間がかかる。新資格の創設から教育カリキュラムの策定、人材育成までにはざっと10年はかかり、もともと足りない社会福祉の人材の奪い合いになってしまうことを懸念している。
・社会福祉士、ソーシャルワーク教育の重要性と現場での必置化を推進する立場である。現行の制度では、社会福祉士やソーシャルワークの視点を理解している人材の配置が十分ではない。基本は、ソーシャルワークの価値と倫理を身に着けた人材を養成することが先決であり、子ども家庭分野もその延長にあると考えている。現行の社会福祉士制度とその教育、人材育成、各自治体の社会福祉職の配置や必置化、社会福祉系資格職へのインセンティブが高まることの方が重要であると考えている。
 
 そして、今回の議員立法で置き去りにされているが、児童虐待の防止は、子どもを保護したその先をどう考えるか、どのような支援が必要か、という視点が欠けていることを強調したい。児童虐待の痛ましい事件が起きるたびに、児童相談所が非難の対象となってしまうが、まずは現状の制度を正しく理解し、様々な問題点を知ってもらいたい。
 
・児童相談所は全国212か所、児童福祉司は約2800人、これに対し、直近の児童虐待対応件数は13万件である(児童相談所数は2018年10月現在、虐待対応件数は2017年度の数値)。テレビで『人手不足というのは言い訳に過ぎない』というコメントを発している方がおられたが、単純に件数だけで見ても、「迅速に、丁寧に関わる」ことができるような数値でないのだ。
・虐待があり、家庭に子どもをおいておくことが難しい場合、児童福祉法第33条に一時保護が規定されている。一時保護所は全国137か所(2018年)である。この一時保護について、昨年度、青山の児童相談所建設反対の議論で誤解のあるコメントを散見したため、訂正の意味を込めて意見を述べたい。
「一時保護」は、基本的にあくまで「一時」であり、その後の子どもの生活場所を決めるまでの保護空間であるため、入所は最長でも2カ月までである(児相長の判断により延長もありうる)。児童相談所に併設されている保護所は、子ども一人当たり約1坪(4.95平方メートル)、畳の居室に、被虐待経験のある子が数人で生活することになり、着の身着のまま保護された子は、私物もなく、保護所の衣類を借りて生活することになる(当然、親からの差し入れもない子もいる)。また、一時保護期間中は、通学はできず、所内で職員やボランティアの学習指導を受ける(学校は出席扱いになる)。基本的には職員の同伴なしには外出も制限される。これは、虐待する親が子どもを奪い返しにくることもあるため、安全面で致し方ないことではあるが、子どもにとっては大変ストレスフルな環境である。学校に行けない、家に帰れない、これからどこで暮らすのか、子どもにとっての悩みは大きい。一時保護所内で複数の被虐待児のケアをしながら、その後の生活場所を決めるのが、児童相談所にとっての大きな課題ともなっている。
・家庭に戻せない、戻れない、と判断された子の場合は、社会的養護、つまり児童養護施設が第一選択となる。ただし、一時保護の次の受け入れ先がない、児童養護施設自体が定員一杯であり受け入れに難航することが多々ある。里親、ファミリーホームはそれよりはるかに少ない選択肢である。
・児童養護施設は、基本的に18歳までである。高校を卒業する時には、自分で暮らしていける道筋を立てなければならない。18歳で、親が頼れない場合、どれだけの子が自信を持って暮らしていけるだろうか。養護施設の職員は、ほぼボランティアでアフターケアの相談に応じている現状である。
・そして、どこで暮らすことになっても、生きている限り、子どもとその虐待した(する)親との関係は続くのである。親子関係の再構築の場合もあるし、虐待や搾取を続けてくる場合もある。子どもにとって、どんな親か知りたい、という切実な想いもある。施設で生活することになっても、子どもの心に抱えている問題が消えるわけではないし、施設職員は長い間そのケアをしている。
 
 今回、新資格で議論されているのは、児童虐待への初期対応、児童相談所の関わりという面ばかりが注目されているが、虐待があったとわかった後に、どう対応するのか、子どもの支援をどうしていくのか、という面の議論がなされていないことに危惧を覚えている。もちろん、児童相談所の負担やマンパワーの問題は早期に解決すべきだとは思うが、一時保護の先、子どもがどこで暮らしていくのか、社会的養護の部分を拡充するような法整備を本来すべきなのだ。そして新資格よりも、子どもの社会的養護中の親子関係、ケア、自立支援に人材と予算を投入すべきであると考えている。

 
 
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