教員紹介

社会学部教員コラム vol.59

2013.09.06 現代社会学科 西村 貴直

生活保護「報道」のみかた

わが国の「最後のセーフティネット」である生活保護制度について、報道される機会が増えています。なかでも多くの人々の関心をひくのは、いわゆる「不正受給」に関わるトピックでしょう。例えば、以下に紹介する新聞記事は、その典型例です。

 

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生活保護不正受給、最多173億円 11年度、1万件増
2011年度の生活保護の不正受給額が総額約173億円(約3万5千件)にのぼることが11日、厚生労働省のまとめで分かった。前年度に比べて約44億円、件数は約1万件増えており、いずれも過去最多だった。
11年度の生活保護費は総額で約3兆5千億円。不正受給が全体に占める割合は0・5%(前年度0・4%)。不正受給額の増加の理由について厚労省は、受給者が増えて保護費そのものが増えたことに加え、自治体福祉事務所による収入調査が進んできた影響と分析している。
不正の内訳は、就労で得た収入の無申告が最も多く45%。年金の無申告が25%と続く。このほか、親族から得た仕送りを申告していなかったり、交通事故の示談金を申告していなかったりした事例があった。不正が見つかったきっかけで多かったのは、自治体による照会や調査で90%だった。
(朝日新聞デジタル2013年3月11日22時48分配信)
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この記事には、生活保護の不正受給に関わるいくつかの「事実」が記述されています。そしてこの「事実」を知った多くの読者は、生活保護の不正受給額がかなりの規模に上っていると知り、わたしたちの納めた税金がきちんと使われていないことが許せないと思い、受給者に対するもっと厳しい調査や指導が必要だという感想を抱くでしょう。
では、以下の「記事」はどうでしょうか。

 

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生活保護不正受給、最多173億円 11年度、1万件増
2011年度の生活保護の不正受給額が総額約173億円(約3万5千件)であることが11日、厚生労働省のまとめで分かった。前年度に比べて約44億円、件数は約1万件増えており、いずれも過去最多だった。
11年度の生活保護費は総額で約3兆5千億円。不正受給が全体に占める割合は0・5%(前年度0・4%)であり、99.5%は適正に執行されている。
不正受給額の増加の理由について厚労省は、受給者が増えて保護費そのものが増えたことに加え、自治体福祉事務所による収入調査が進んできた影響と分析している。その一方で、収入調査が厳しくなりすぎたことにより、生活保護の申請をあきらめるケースも増えていることが専門家により指摘されている。
不正が見つかったきっかけで多かったのは、自治体による照会や調査で90%だった。不正の内訳は、就労で得た収入の無申告が最も多く45%。年金の無申告が25%と続く。このほか、親族から得た仕送りを申告していなかったり、交通事故の示談金を申告していなかったりした事例があった。ただし、このなかには職員が適切な指導や説明を行っていれば防げた事例も含まれる。また、悪質な貧困ビジネス業者によって不正受給に巻き込まれる事例もあり、受給者による悪質な不正受給は少ないとの指摘もある。
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これは、最初の記事で示された「事実」の部分は変えず、表現の一部修正といくつかの補足を加えた架空の「記事」です。書き加えたところは、赤字で示しました。
前の記事と比べてどのような感想をもつでしょうか。いわゆる「不正な利用」は、あらゆる社会制度につきものですが、生活保護費の「適正執行率」99.5%というのは、実は驚異的な数値です。また「不正受給」という言葉は、受給者の「悪意」を連想させますが、実は「支給」する側に問題があるケースも少なくないのです。
様々なメディアを通じて私たちに届く「事実」は、必ずしも事態の正確な理解を導くものとは限りません。自分が本当に知るべき事実とは何か。社会学の知見は、それを見極める有効な「道具」になると思います。

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