教員紹介

社会学部教員コラム vol.54

2013.03.08 現代社会学科 新井 克弥

ウォルトが生きるロス・ディズニーランド〜日米ディズニーランド比較③

ロス・ディズニーランドに今も残るウォルトの精神について検証している。前回はフロンティアランドにある廃線と、そのトンネルの”いわれ”について紹介した。今回はトゥモウロウランドにある潜水艦のアトラクションをあげてみたい。

 
Finding Nemo Submarine Voyageはなぜファンタジーランドとトゥモウロウランドの間にあるのか

 
Finding Nemo Submarine Voyageは2007年にオープンしたアトラクション。ゲストは原子力潜水艦ノーチラス号に乗って水の中の世界を旅する「お客が回遊する水族館」なのだけれど、もちろんここでゲストが見ることができるのは実際の生物ではなくオーディオ・アニマトロニクスト(機械仕掛けの生き物)と、映像で展開されるNemoの世界。これが、ファンタジーランドとトゥモウロウランドの間に設置されている。しかも、括りとしてはトゥモウロウランドに属している。ピクサーキャラクターのNemoなのだからファンタジーランドかカリフォルニア・アドベンチャーに置かれるのが正しいという感じがするが、ここにこのアトラクションが設置されているのは、ウォルトの精神という”いわれ”からすればある意味絶妙な塩梅といえる。

 

“Finding Nemo Submarine Voyage”はトゥモウロウランドとファンタジーランドの間にある

(所属はトゥモウロウランド)

 

 

実は、かつてここには、1998年までこれとほとんど同じアトラクションがあった。その名も”Submarine Voyage”と、Nemoの部分を取っただけ。そして、これはウォルトが生前に構想したものだった。やはり潜水艦に乗って海の中の世界を見せるものだったのだけれど、この潜水艦が周遊する横の岩礁には人魚がいてゲストに愛想を振っていた。この人魚、なんと人間が演じていたのだ。

 

Submarine Voyageについては、ウォルトにまつわる有名なエピソードがある。1959年、ソビエトのフルシチョフ共産党書記長がアメリカを訪問した。時は冷戦のまっただ中。それゆえフルシチョフの来日はアメリカにとっては大きな事件だった。そして、この来日スケジュールの中にフルシチョフたっての希望でディズニーランドの訪問が組み込まれていた(フルシチョフは家族とディズニーランドに行きたがっていた)。共和党支持という典型的な保守で、レッドパージにも協力し、労働組合を踏みにじることに精力を注いだウォルトにとって、フルシチョフの訪問は敵国・ソビエトのトップにアメリカの威厳を示してやろうという野望を叶えるにはうってつけの機会。そこでウォルトはアメリカ的な優位性を示しながら友好を深めるために、このアトラクションを利用することを思いついたのだった。

 

その計画とは、フルシチョフ来園時、潜水艦を勢揃いさせたこのアトラクションの前に一行を招き寄せて艦隊式を催し、次のようにコメントすることだった。

 

「フルシチョフ閣下!我がディズニーが誇る世界第3位規模の潜水艦隊であります。わがアメリカは、これだけの潜水艦を揃えています」

 

ちょっと皮肉が入ってはいるが、無邪気なウォルトらしい茶目っ気溢れた演出だ。ウォルトはこれを得意満面でやりたかったに違いない。

 

しかし、この思惑は見事に外れてしまう。というのも、アメリカ政府が治安上の保証ができないということで、フルシチョフのパーク訪問を直前でキャンセルしてしまったからだ。ウォルトはさぞかしがっかりしたことだろう(ちなみにフルシチョフの悔しがりは尋常ではなかったという。この二人、もし遭遇することがあったなら、きっと意気投合したんじゃなかろうか。どっちも”子供っぽい”という性格が同じなのだから)。

 

このアトラクションは1998年に運営を終えるが、その後、ピクサーアニメ”Finding Nemo”の大ヒットにあやかって復活する。ただし今度は原子力潜水艦ではなく黄色い一般の潜水艦として(ちなみに、以前のアトラクションの時にもリニューアルの際には黄色に塗り替えられている)。しかも、そこで展開されるのはNemoの世界。だから、これも前回説明したビッグサンダーマウンテン同様、ウォルトの精神を現代風にアレンジし直したものなのだ。

 

こういった「いわれ」「文化的継承」については、さらに徹底が図られている。2007年、本アトラクションのグランドオープンニング・セレモニーが開催された。そしてこの時、いの一番に招待されたのは……なんと、かつてここで働いていたキャストとその子どもと孫、そして人魚を演じていたキャストだった。そう、オープニングでは、しっかりとウォルト精神の継承儀式が繰り広げられていたのだ。

 
以前よりも、よりウォルトらしいアトラクション?

 
こうやって考えてみると、このアトラクションがファンタジーランドとトゥモウロウランドの間に設置されていることの必然性が見えてくる。潜水艦という「未来」的なものにNemoという「ファンタジー」が加わってちょうど二つのテーマをつなぐ存在になっているからだ。ディズニーランドの基本コンセプトは「テーマパーク」。ただし、パークの中にはいくつものテーマランドがあり、常にランドとランドの間をどうつなぐかが問題になる。隣のランドが見えたらテーマは破壊され、興ざめしてしまうからだ。だからランド間は目隠しがされたり、プロムナードが設けられたりする。しかしこのアトラクションはどちらの要素含んでいるため、そういった仕切りを置かなくてもテーマはなだらかに変化し、全く違和感がない。ある意味、ウォルトが当初設置したSubmarine Voyageよりも、さらにウォルト的なのだ。

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