教員紹介

社会学部教員コラム vol.53

2013.03.01 現代社会学科 新井 克弥

ウォルトが生きるロス・ディズニーランド〜日米ディズニーランド比較②

東京ディズニーランド=「過去を振り返らないオタクランド」、ロス・ディズニーランド「過去を引きずるウォルトのランド」、つまり「ウォルトの精神を徹底的に踏襲したテーマパーク」という前提でロス・ディズニーランド(DL)の魅力についてお伝えしている。

 

さて、DLの「過去の引きずり方」だが、これは「文化の重層性」と言い換えることができるだろう。とにかくウォルトが生前、このパークに注入した精神を厳密に守ろうとするのだ。それゆえ、施設を新設・更新する際にも、過去のアトラクションや施設と新設するそれとの関連=いわれが綿密に計算される。

 

いくつか例を挙げよう。今回はその一つ目、鉄道について。

 
フロンティアランドにある廃線とトンネル

 
フロンティアランド(TDLのウエスタンランドに相当する)でアメリカ川を周遊するマークトウェイン号(あるいはコロンビア号)に乗船すると、その終点近くの左側に妙なものを見つけることができる。ボロボロになった線路(数年前まではボロボロの脱線した列車もあった)、そして使われていない二つのトンネルだ。

 

アメリカ川横に突然出現する廃線

 

 

これは下船してその反対方向に向かってみると、やはりトンネル(つまり、反対側の入り口)二つを見つけることができる。ひとつはトンネルの向こうに光がはっきり見える、もう一つは板でトンネルが塞がれている(しかし、かろうじてトンネルの向こう側の光が見える)。これはいったいなんなんだろう?

 

川の反対側にあるトンネルの跡

 

 

 

こちらもトンネルの跡。目隠しがない。

 

 

ようするにアトモスフィアなのだけれど、実はもともとこれはアトラクション。それを廃止した後、わざわざこういったかたちでアトモスフィアとしてそのまま残してあるのだ。

 

鉄道はウォルトのアイデンティティ

残す理由は、はっきりしている。ウォルトにとってディズニーランドとは、先ずはじめに「鉄道ありき」であったからだ。子ども時代、ウォルトには子ども的な生活がほとんどなかった。父・イライアスは敬虔なクリスチャンだったが、それゆえ厳密な労働を子どもにも強いていた。なおかつ仕事を頻繁に変える性格があるゆえ、子どもたちは常に貧困の中で重労働を強いられることになる。これはウォルトも例外では無かった。とにかく子どもの頃から新聞配達みたいなことを一日中やらされていたのだ。こんな父親ゆえ、兄たちはそのつらさに耐えられず次々と家を出て行った。だが、それは、彼/彼女たちの担っていた労働がそのままウォルトの仕事に追加されることに他ならなかった(ウォルトは仕事に終えて家に帰ると、疲労のあまりそのまま気絶するということが何度かあったらしい)。

 

そんなときウォルトが垣間見た子どもの世界は新聞配達先の家庭だった。そこには子どもが遊ぶおもちゃがあり、いかにも子どもの生活環境らしい風景が広がっていた。そして、これはもちろんウォルトが決して得られない環境でもあった。

 

そんな劣悪な環境の中で、ウォルトが唯一楽しみにしていた仕事がある。それは鉄道内での売り子だ。列車に乗ることが大好きだった。だから、これだけは嬉々としてやっていたのだ。

 

こういった「子ども時代の無さ」へのルサンチマン、「子どもの頃の鉄道への思い入れ」がディズニーランドにはベタに反映されている。つまり、ディズニーランドはウォルトが子ども時代に親しみたかった環境の再現であり、鉄道はそういった子ども時代の夢を象徴するものだった。ウォルトにとって鉄道とはアイデンティティを確認するものにほかならなかったのである。<br /><br /> だから、ディズニーランドはその建設に先立ってスタジオがあったバーバンクスの敷地にそのプロトタイプを作る計画を立てたときには、やはりパークの中心は鉄道だった。

 

 

ウォルトが当初、バーバンクスのスタジオのそばに建設しようと構想したディズニーランドのプロトタイプ。
完全に「鉄道ランド」といった趣だ。

 

 

そしてディズニーランド建設にあたっては、なんとこのパーク内にいくつもの鉄道を敷いたのだ。一つはパーク外周を周遊するDisneyland Railroad、二つ目はファンタジーランドにあるCasey Jr. Circus Train(映画「ダンボ」のサーカス列車がモデルで、当初はジェットコースターとして建設する予定だった)だった。この二つは現存するが、実は三つ目が存在した。The Mine Train Through Nature’s Wonderland という、フロンティアランドにあったアメリカの荒野や自然をを見て回るというアトラクションがそれだ。これは1977年まで運営された。そして、この名残こそが現在アトモスフィアとなっている廃線、そしてトンネルなのだ。

 

 

(YouTubeのURL)http://www.youtube.com/watch?v=ryvEVvn-1Uc&feature=player_embedded

(キャプション)フロンティアランドにあったthe Mine Train Through Nature’s Wonderland

 

しかもこれは、ただ残しているのではない。あえて廃線を見せる、そしてトンネルがあったことをこれ見よがしに見せているのにはちゃんとした理由がある。その理由とは、もちろん「ウォルトの鉄道への思い入れ」そして「ウォルトの思想の継承」といったい見合いがあるのだ。

 

次のビデオを見てほしい。

 

(YouTubeのURL)http://www.youtube.com/watch?v=Ym_sQ4-16eI&feature=player_embedded

(キャプション)Big Thunder Mountainはthe Mine Train Through Nature’s Wonderlandの継承であることが、この映像から見て取ることができる。

 

これは川の反対側から見えるトンネルから、その反対に流したビデオだ。もしトンネルがそのまま続いていたら、当然、線路はカメラでいえば180度反対側に続いているはずだ。そしてその180度先に見えるのは、なんとBig Thunder Mountain Railroad、そう日本でもお馴染みのビッグサンダーマウンテンなのだ。これは1979年に新設されたのだけれど、ようするにThe Mine Train Through Nature’s Wonderland はビッグサンダーに取って代えられたのである。そしてそれは、ウォルトの精神を今日ふうにアレンジしなおしたことに他ならない。僕が言いたかった文化の重層性とは、つまりこういうこと。こういった継承性は「過去を振り返らない」TDLでは決して見ることはできない。

 

いや、これだけでははい。DLではウォルトの精神の継承がこれ以外にもあちこち見つけることができる。

(続く)

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