教員紹介

社会学部教員コラム vol.52

2013.02.25 現代社会学科 新井 克弥

ウォルトが生きるロス・ディズニーランド〜日米ディズニーランド比較①

ロス・ディズニーランドのランドマークはシンデレラ城ではなく眠れる森の美女のオーロラ城だ

 

現在世界にはロサンゼルス(正確にはアナハイム)、フロリダ(オーランド)、東京(浦安)、パリ、香港の五カ所にディズニーランドがある。その中で最も成功を収めているのがロスの元祖ディズニーランド(1955年開園、以下DL)と東京ディズニーランド(1983年開園、以下TDL)だ。全てのディズニーランドはウォルト・ディズニーが建設したDLを下敷きにしている。ただし、パーク自体はDLをそのまま移植したというわけではない。また、年月を経るにつれ、パークは設置された社会の文化にローカライズされるかたちで少しずつ変化している。

 

そこで、この最も成功した二つのパークを比較し、そこからロス・ディズニーランドの魅力について、そして日米の文化格差について考えてみたい。この二つ、同じようでいて、実はかなり異なっている。

 
TDLは過去を振り返らない

 
開園以来、30年のあいだにTDLは大きな変容を遂げてきた。そしてその変容はきわめて日本的なそれであったと言える。少し話は逸れるが、かつてNHK番組「ブラタモリ」で秋葉原を取り上げたとき、タモリは秋葉原について実に秀逸な表現をしている。それは、

 

「ここ(秋葉原)は過去を振り返らない街だ」

 

つまり、戦後、青果市場から電気パーツ屋街に代わり、次いで電気屋街となり、パソコン・パーツの集結地となり、そしてオタクの殿堂となった。その際、秋葉原はどんどんスクラップ&ビルドを繰り返し、過去の片鱗を残さない。つまり秋葉原は何でも収容し、入れ替え可能な箱のようなものと表現したのだ。まあ、当初の計画・企画されたものがその後維持されず、どんどん変容していってしまうのは、日本独特というより広くアジア全般に通用する文化とも言えるのだろうけれど。その極致としてタモリは秋葉原を「振り返らない街」と表現したのだった。

 

TDLはこの「振り返りの無さ」について、しっかり日本文化的なのだ。オープン当初こそ本家のウォルト・ディズニー・プロダクション(現ディズニー・カンパニー)の指導の下に、その世界が忠実に再現されていたのだけれど(いちばんの雛形としたのはフロリダにあるウォルト・ディズニー・ワールドのディズニーランド部分にあたるマジック・キングダムで、ここにもシンデレラ城がある)、それが年月を重ねるにつれてどんどんと変容していったのだ。だが、それは言い換えればウォルトの理念に基づくディズニー世界からの乖離ということでもあった。

 

今、TDLを見てみるとテーマ性は破壊され、ファミリーエンターテインメントというコンセプト(=大人も子どもも家族みんなが楽しめる遊園地)もあいまいになり、経営方針のS.C.S.E(Safety、courtesy、show、efficiency=安全であること、礼儀正しいこと、ショーアップすること、効率を徹底する)もかなりのレベルで守られなくなった。その代わり、多くのリピーターが訪れるようになり、このリピーターたちの多様化するディズニーへの志向に対応するようになって、ディズニー世界のごった煮みたいな脈絡の無さを露呈するようになっている(僕は、これを「ディズニーランドのドンキホーテ化」と呼んでいる)。つまり、名前こそディズニーランド、つまり「ウォルトのランド」だが、実際のところディズニーオタクのためのランドに変貌を遂げたのだ。いいかえれば、ここにウォルトはもういない。そして、ゲスト=ディズニー・オタクのニーズに応えてディズニー世界の限りない増殖を繰り返し、スクラップ&ビルドが繰り返されている。つまりここは日本文化の様式にすっかり染まった「オタクのランド」という別のパークなのだ。

 

その典型が、たとえば東京ディズニーシー(TDS)にあるDuffyというキャラクターで、雛形こそTeddy bearの変形としてアメリカで販売されているDisney Bearと呼ばれるものなのだが、こちらにローカライズされるにあたっては、このキャラクターのいわれ=物語までが変更され、TDSにふさわしいものになっている(夜キャッスル前で仲間を待つミッキーの下に出現した→航海に出るミッキーのためにミニーが作った)。ちなみに、このキャラクター、純粋なぬいぐるみで、顔や肉斑などに隠れミッキーが付け加えられていること以外、ほとんどディズニーアニメ・キャラクター的な文法を踏まえていない。しかし、今やこのキャラクターがディズニーでミッキーに次ぐ人気を誇り、挙げ句の果てにはDuffyとしてロスのカリフォルニア・アドベンチャーに進出するまでに至っている。つまり日本で生まれたディズニーオタク文化の本家への殴り込みが起きているのだ(もっともディズニーランドにはBuild・A・Bearという、やっぱり熊のキャラクターが存在し、Duffyと同様様々な着せ替えセットが売られていたりするのだけれど)。

 

 

Disneylandの向かい、California Adventure内にあるDuffyのコーナー。本家に逆輸入?

 

Downtown DisneyにあるBuild・A・Bear。Duffyと同様、ディズニーキャラクターに着せ替え可能だ。

 

 

僕みたいなウォルト派の人間からすると、どうも最近の東京ディズニーリゾートはあまり足を運ぶ気になれなくなっている。前述したように、そこに見ることができるのはウォルトの世界=ディズニーランドではなく、秋葉原のようなオタクランドだからだ。オタクたちが「情報収集」という目的のために殺気だった目をしてパークを早足で歩いているようにすら思えるのだ。だから、ロスの本家を訪れるとホッとしてしまう。そう、ここはウォルトが生きてる場所、ウォルトに会える場所なのだ。

 

ということで、次回からロス・ディズニーランドの魅力、とりわけウォルトの精神がどのようにこのテーマパークに生き続けているかについて語ってみたい。ちなみにその生き残り策は、TDLとは逆の「過去=ウォルトの精神を徹底的に継承する」ということになる。(続く)

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