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行けたら行く

教員コラム
2019.07.01
現代社会学科
矢﨑 千華

 私は関西に住んでいましたが、「行けたら行く」というフレーズが使われた場合、それはほぼ「行かない」ことあるいは「来ない」ことを意味するものとして捉えられていました。「行けたら行く」と言っていて、実際に行ったら驚かれるといった具合です。てっきり関西に特有の言い方かと思っていたのですが、最近ゼミの学生に聞いたら関東でも使うということでした。
 「行かない」って言えばいいのに、なんでこんな不思議なフレーズを使うのだろうかというのが初めて聞いたときに思ったことです。
 ただ、この「行けたら行く」は、社会学の一分野である会話分析の視点で考えるとよくできたフレーズなんだと後になって納得しました。
 会話分析では、人びとの間での会話の規則に注意を向けます。例えば、「隣接ペア」という概念があります。
 
 「こんにちは」
 「こんにちは」
 
 「今日うちで一緒にレポート書かない?」
 「うん、そうしよう」
 
 あいさつにはあいさつを返し、質問されたら返答する。発話の「隣」に何が来るのかは、決まっているということです。
 この「隣接ペア」には、いくつかの種類があってその中のひとつに「勧誘-受諾・辞退」があります。つまり、誘われたらYESかNOを答えるようになっているというものです。ただ、この「辞退」=「NO」がやっかいになります。「辞退」=「NO」と言うときは、その理由を説明することが求められるからです。
 
 「週末に、映画を観に行かない?」
 「ダメなんだ、その、週末はテスト勉強しなくちゃいけなくて…」
 
 なぜ「NO」と言うとき、理由を用意することが必要なのでしょうか。「YES」と答えた場合は、それに対して「なんで?」と聞かれることはありません。でも「NO」と答えた場合は、「なんで?」と理由が聞かれる発話が続く可能性があります。
 という概念を用いて「行けたら行く」を考えてみます。
「行かない」(=「NO」)と言うと理由(=「なんで?」)が求められる可能性がある。もし、その理由が「なんとなく行きたくない」「面倒」などの理由であれば、相手は納得しないかもしれません。そこで「行けたら行く」の出番です。これは、一応「行く」(=「YES」)と言っているので理由(「なんで?」)は聞かれない(相手からすると尋ねにくい)。ほぼ「行かない」ことを意味しているとしても、会話上は「行く」(=「YES」)と言っているからです。
 「行けたら行く」というフレーズを初めて聞いたときは、「変な言葉だなぁ」と思いましたが、今では「よくできた言葉だなぁ」と感心しています。
 
 
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