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トイレから男女平等を考える

教員コラム
2018.06.29
現代社会学科
新井 克弥

 4月21日、読売新聞に「水に流せない!“女子トイレ行列”問題」という記事が掲載されました。これは男女平等とは何かを考えさせてくれる、なかなか興味深い記事です。そこで、これを引用しつつ「男女平等とは何か」について、ちょっと考えてみましょう。
 
◆女性のトイレ利用時間は男性の2.5倍
 記事の中でトピックとして用いられているのは大正大学人間学部・岡山朋子准教授の研究で、具体的には高速道路のトイレ(サービスエリア)の現状についてです。ゴールデンウイークともなると、こうした場所の女子トイレの前には行列が出来るのが慣例。その一方で、男子トイレで行列という事態はあまり見かけません。
 
 確かにその通りで、今まで「女子トイレはいつも混んでいるよな?」くらいしか思っていなかった自分がちょっと情けなくなりました。実際、この問題は、”男女平等はどうあるべきか”について深く考えさせてくれるものでもあります。
 
◆女性を男性にしようとする「男女平等」
 男女平等は、あたりまえの話ですが「何事につけても男性と女性を平等にする」という立ち位置です。しかし、この立場はよく考えてみる必要があります。というのも、残念ながら現状、社会は男性性を中心に構築されています。ということは、現段階ではこの前提に基づいた社会的平等は結局、女性を男性と同じレベルに引き上げる、もっと言うと「女性を男性にする」という怪しい立ち位置になってしまうからです。これでは女性の立場を全く踏みにじっていることにしかなりません。
 
 たとえば、賃金格差などは最たるもので、「女性は出産するから重要な仕事には使えない」みたいなモノイイがその典型です。しかし、この立場は男性が出産しないことが社会構造の基盤とみなしているから成立している男性中心の考え方に過ぎません。もちろん政府も含めて男女共同参画社会が提唱されてはいますが、こうした平等を謳いながら、その実、男性社会に女性をはめ込むような流れがいまだに主流のままというのは、やはり問題ではないでしょうか(男女の賃金格差や女性における離職率の高さ、職業機会・政治参加率の低さなどは、日本社会における男女差別が依然、深刻であることを示しています。事実、2017年世界男女平等ランキングで日本は114位、しかも前年度より3位後退しています)。
 
 つまり、社会は「男性社会への女性の組み込み」ではなく「人間社会への男性と女性の組み込み」である必要があります。それは男性と女性が共生可能な社会ということに他なりません。それについて問題を投げかけているよい一例が、このトイレ問題ではないでしょうか。
 
◆トイレの男女平等一つをとっても、なかなか簡単ではない
 ただし、人間社会、つまり男女差を認識しつつ、双方が平等に暮らすことの出来る社会の成立のためには、もう少し突っ込んだ議論が必要です。その難しさをちょっと考えてみましょう。
 
 まず小さな問題から。前述のトイレ問題で考えてみましょう。ここでの平等は、とりあえず「待ち時間の平等化」としましょう(別の平等性もあるかもしれませんが)。そのように考えた場合、サービスエリアでの女子トイレの数を男性の2.5倍にするだけでは不十分なことがわかります。
 
 利用時間差が男女で2.5倍が正しいとして、これを踏まえながら平等を考えれば次のようになります。
 
 先ず、共学の中学や高校の場合。生徒数が男女比1:1ならばトイレの数は2.5倍でよいでしょう。ところがこれが東京ディズニーランドなら正しい比率ではなくなってきます。というのも来園者の男女比率が3:7だからです。ということは7÷3≒2.3の倍率をこれに掛け合わせて5.8倍にしなければならないのです(ディズニーランドはトイレ数を供給過多にすることでこれに対応しています。それゆえ、実を言うと男性トイレはほとんどいつもガラガラです。サービスエリアと違って私と私のカミさんが同時にトイレに入っても、さして変わらぬ時間でトイレから出てくることが出来ます。このへん、ディズニーランドはよく考えています)。
 
 これが件のサービスエリアなら、もっとややこしいことになります。通常であるならば、現状では運転を職業とする労働者の割合は男性の方が高い。となると、この割合も鑑みる必要があります。つまり2.5倍は高すぎる。ところが、大型連休となればレジャー利用客が大幅に増えるわけで、その際には女性比率はグッと上がる。そうなると、今度はこれを踏まえたトイレの構成を考慮しなければなりません。具体例として考えられるのは、たとえば可動式の壁を設けて時期に応じてこれを移動させ、男女のトイレ比率を変更するというやり方です。こうした方法については現代ではビッグデータを利用すればある程度の予測可能でしょう。ただし、女性は小便器を利用しないわけで、これをどう考えるかも問題です。小便器は大便器よりスペースを取らないことも考慮する必要があります。ということで、なかなか難しい。
 
◆ジェンダーは変容し続ける
 そして次にもっと大きな問題があります。この手の問題を考えるときに前提にされているのは言うまでもなく”ジェンダー”。これは生物学的な性別ではなく社会文化的に形成された性別をさしているのですが、「社会的」という前提がある限り、その位置づけは常に安定しません。文化、歴史によって絶え間なく変動する。ということは、これを踏まえて既存の女性、男性双方のジェンダー定義を不断に変更し続ける必要があるのです。当然ながら前述した「人間社会」という定義もこれを踏まえつつ変更しなければならないし、そこから平等の定義も模索し続けなければならない。つまり“永遠の課題”となるわけです。トイレ問題にしても今後、用足しのスタイルが変わることもあるかもしれないし(例えば、女性の用足し時間が短くなるとか、男性全員が座って用を足すようになるとか。ちなみに我が家はそうなっています(笑))、運転を職業とする労働者の女性比率が上がることも考えられます。あるいはまた、トイレの男女別を気にしないような認識が生まれるかもしれません(事実、スウェーデンのトイレは原則、男女共用になっています)。こうなると、これに対応した基準を再設定する、いや再設定し続ける必要があるわけです。加えて言えば、実は生物学的な性別とジェンダーの線引きもハッキリしていない。つまりジェンダー問題、やっぱりなかなかややこしい、難しいということになります。
 
 とはいっても、これをやり続けなければなりません。それゆえ、私たちは不断にジェンダーを学び続けることを心掛ける必要があります。しかも永遠の課題として。
 
 ”文化が変容し続けるかぎり、ジェンダーもまた変容し続ける”。私たちはこのことを肝に銘じておく必要があるのではないでしょうか。
 
 
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